家の中でも特にキッチンには、暮らす人の趣向、工夫、
そして物語がつまっているように思います。
使いやすいようにどんな工夫をしているの?
どんなふうに過ごして、どんなごはんを食べているの?
いろいろなキッチンをリレー形式でめぐり、
暮らす人の「作って食べる」に隠れた物語をうかがいます。
10回目となる走者は、花生師 岡本典子さん。
手がける静謐な花の世界観とは裏腹に
撮影現場やイベント会場には
ピックアップトラックの荷台に、
大量の植物を積んでやってくるという男前。
このピックアップトラック、
実はキャンピングカーになると聞いて
走るキッチンに、おともしました!
Vol.1 福田春美さん(ブランディングディレクター)
Vol.2 栗又貴美さん(「ジーペンクォー」デザイナー)
Vol.3 白尾可奈子さん(イラストレーター)
vol.4 カワナカユカリさん(イラストレーター)
vol.5 シラス・ヴィダールさん(エディトリアルデザイナー)
vol.6 森清美さん(服飾作家)
vol.7西野優さん(ピリカタント主催)
vol.8 おおたはらみほこさん(スペシャルティコーヒー店経営)
vol.9 滝口和代さん(ネストローブプレス)
VOL.10 岡本典子さん(花生師)
ピックアップトラックに、「J-cabin F」というアルミフレームキャンパーを背中背負えば、キャンピングカーに。とご主人が独身時代に買った車だそうで、走行距離は10万キロ!
“タイヤがつくもの、なんでも好き”なご主人の
独身時代からの愛車、キャンピングカーが
今では4人家族のファミリーカーに
©Noriko Okamoto
今年に入ってからだけでも、4、5、6月あわせて4.5回行くほどのキャンプ好き。遠くに住んでいる友人家族と日程を合わせて現地で合流することが多い。「久々に会った子どもたち同士は、ひたすら走り回って泥だらけになって遊んで、親はテントを張ったらあとはビールの時間。何にもしない、幸せな時間です」
以前から撮影現場でお会いするたび、
岡本さんの車はいかついな、と思っていました。
TOYOTAのダットサン。色は、ネイビー。
ピックアップトラックといわれるジャンルで
車幅もあるし、女性が運転するにはなかなか勇気がいる車種。
岡本さんも「この車からワンピースとかで降りてくるから、
そのギャップに笑われる」といいます。
しかも、この車、「J-cabin F」というキャビンを
合体させるとキャンピングカーになるという!
インスタには、キャンピングカーで出かけている写真もたくさん。
「タイヤがつくものなんでも好きな夫が、独身時代から乗っていた車なんです」
最初はふたりだけで乗っていた車が、2007年に長男の陸翔くんが生まれ、
2年後に長女のことりちゃんが生まれ、と家族が増えた今、
お出かけには欠かせないファミリーカーになったとか。
(ちなみに、日常の生活にはもう1台ある乗用車を利用されています)
キャンプ道具はあまり専用のものは買わない、という。お皿は割れにくい木のもの、鍋も普段使っているものをそのまま、野外でも活用。どさっと入れられる大きなカゴやトートバッグがあれば、持ち運びに便利。
キャンピングカーのなかはこんなふう。限られた空間のなかでミニキッチン、テーブル、ベッドが2台と、なんてわくわくする空間!エスニックな布をシーツがわりに敷き、クッションを置いて。今日は、煮込まなくていいスパイスたっぷりのカレーを作ってくれるそうです。
岡本家のキャンピングカー。
アウトドアシーズンのオンオフ関係なく、
家族からめちゃくちゃ愛されています。
「キャンプに出かけないときでも、
今日はキャンピングカーの中で寝る?って聞くと、
子どもたちのテンションが、イェーイ!ってあがりまくる。
週末の家庭内のイベントですよね。
でも、朝になるとしれっとクーラーの効いた部屋で寝ている(笑)」
というほほえましいエピソードや、
「大晦日は夕方くらいから4人で車にのって、初日の出を見にでかけるんです。
途中、ごはんを食べたり道の駅でお風呂に入ったり、車のなかで年越し蕎麦茹でて食べたりね。
うちの子たちは紅白を見たことがないかも」
日の出を拝む場所はあえて決めずに、自由にハンドルを切るそう。
決めない、というのがいい。
もともと、ご主人がキャンピングカーを買ったのも
どこでも好きなところへ出かけて、好きなところで眠れるから、という
車好き旅人的な自由な発想から。
「行く年来る年」を見ながら静かに迎える新年もいいけれど
(うちはこのスタイル。12時過ぎるとすぐに寝てしまいます)、
年越しの瞬間を家族でお祝いして、
そのままあたたかいキャンピングカーのなかで
毛布にくるまって眠って。
元旦は、うんと早起きして寒い寒いと4人でくっつきながら
初日の出を眺める、なんて素敵な過ごし方。
自宅の裏には園芸店のビニルハウスや樹木の畑があり、みごとな借景に。
家のなかにも植物がたくさん。
そして、4月も終わりになると待ってました!のキャンプシーズンの始まり。
まわりもキャンプ好きが多いため、複数の家族で誘い合って
山梨や静岡へ出かけるそう。
日程が許せば、3泊4日。
「1泊だけだと出かける準備と移動だけで終わってしまうし、
子どもたちも不完全燃焼に」
キャンプ場ではテントとタープをはり、外にキッチンとダイニングを作ってしまうので、
あくまでキャンピングカーは荷物置き場か悪天候時の避難場所に。
自然のなかで時間の流れや天候の移り変わりを身をもって体感できるのは
子どもだけでなく大人にとってもにとって、大きな財産。
生命力がむくむくと、息を吹き返してくるのを感じます。
キャンピングカーという、通常の車とはまた違う空間。
家と外との間のようなその場所は、
岡本さんのふたりのお子さんにとって、きっと特別な思い出になるはず。
さて、次回は岡本さんが自宅裏でひっそりと作っているタイニーエヌガーデンへ。
後編へ
写真 大畑陽子(愛車/ネイビーのフォルクスワーゲン)
取材・文 高橋紡(愛車/黒のボルボV70)