もっと知りたい、かごのこと。素材別 手提げのかご-日本編-(前編)はこちら
日本人の生活を支えてくれた竹からできるかご
真竹(青竹・白竹)/日本各地(北海道、北東北をのぞく)
日本の広い範囲で、 あちこちに生えている竹。成長が早く、丈夫で加工しやすい、水にも強い、と日用品の多くが竹で作られていました。プラスチックやステンレス製品にとってか わられるまで、台所のザルやかご、漁港で水揚げされた魚を入れて運ぶ竹の運搬用のかご(昭和40年くらいまでは全国で使われていました)など、日本人にとっていち ばん馴染みのある素材かもしれません。
「竹にもいろいろな種類があるんですが、もっとも一般的なのは真竹です。
採取した竹をそのまま割って、かごにしたものを青竹細工とよんでいます。昔ながらの暮らしのかごはほとんどこれらのことをいいます。
そして、青い竹を火にあぶるなど人の手によって加工して、油抜きの下処理をしたもののことを白竹とよんでいます。もともとの青い色は抜けて、ツヤのある象牙のような色に。特に、大分県の別府が国内最大の産地で、造形性の高い工芸品に多く使われています」
一番右から鹿児島のみがきかご。青竹を「みがき」という表面を磨いた処理をすることで、色が早く変化したものです。中央の白竹は大分・別府の作家もの。
名湯で知られる別府。江戸時代は湯治客の炊飯用の笊などを中心に竹細工が発達し、明治の開港とともに遠方客が増加。様々な竹細工がつくられるようになったそう。地場産業として発展し、今でも国内唯一の竹工芸を学べる訓練校があります。左の青竹の手提げは、「坊ちゃん」の舞台、愛媛・道後温泉で古くから外湯めぐりに使われた湯かご。どちらも、夏に持ちたい涼しげな質感です。
根曲竹(ねまがりだけ)/青森県、長野県など
「雪の重みに耐え根が曲がっているのでこの名前に。笹のなかでは一番北に生え、耐久性が高いのも特徴です。たけのこがおいしいですよね」
あまりの丈夫さに竹を割って削るのに力がかなり必要。男性の職人さんが多いといいます。青森・弘前、長野・戸隠が主な産地。青森ではりんごの収穫用のかごの材料として使われていたほど、ヘビーデューティーに耐える竹のかごです。
右は「六つ目編み」をアレンジし美しい模様に編み上げた珍しい手提げ。丈夫でしっかりしているので長く使える逸品。
鈴竹(すずたけ)/岩手県、山梨県など
「鈴竹は鉛筆くらいの細さで、2メートルほどに成長する笹の仲間です。竹と比べると薄く細く、柔らかいから繊細な細工ができるんですね。台所の水切りざるから、さまざまな収納のかご、おでかけのかごバッグまで、たくさんの用途のかごが存在するのも、この素材ならではと思います。」
長く一大産地であり続ける岩手県一戸では、竹の材料を加工するのに力があまりいらないからか女性の作り手が多いそう(そうはいっても、実際の作業は大変ですが)。
編み手の方からもこんな面白い話を聞きました。一戸には「鳥越観音」という今でも大切に祀られている観音様があるのですが、長く厳しい冬に困窮していた村人を救うためにこの観音様がえらいお坊さんの夢に現れて、鈴竹細工の技を授けたという、伝説が残っています。技を授ける代わりに殺生を避けよ、と細工をする人は肉、魚、卵も食べず、また一戸を治めていた南部藩により技が他所へ漏れるのを防ぐため結婚も同じ集落内でしなければならなかった、と。
その伝統がつい最近まで残っていて、今でも肉、魚、卵を食べない編み手の方もいるとか。長い人々の生活の積み重ねの上に残されている細工なんだということが、よくわかるエピソードです。
大容量、安定感のある四角い形。「市場かご」としても人気の鈴竹のかご。小さいサイズはお出かけに、大きいサイズは買いだし、ピクニックに。室内の収納にも便利。
そのほかこんなかごもあります
板屋楓(いたやかえで)/秋田県
なめらかな手触りと清潔感ある白い木肌。竹やつるが多い日本のかごの中では珍しく、樹木を割った材を使っています。「いたやかえで細工といえば、秋田県の角館。武家屋敷が立ち並び、東北の小京都です。いたや馬やおべんとう箱が今では人気ですよね。古くは、雪深い農閑期の手仕事として、もみをふるい落とすための箕や、腰かごが作られていたそうです」
蒲(がま)/岡山県
ツヤツヤとした美しい光沢をはなつ蒲。西日本随一の豪雪地帯、岡山県蒜山の湿地に自生するヒメガマは、ワラよりも軽く耐久性に優れ、油分を含むため、長靴や蓑、笠と雨、雪よけの道具、背負いかごにと使われてきました。その技術が失われようとしているなか、地元の女性たちが、その伝統を今に引き継ごうと編んでいるのがこのバッグ。軽さとツヤ、やさしい肌触り。大人の質感、デザインで長く使えそうですね。
右が蒲の手提げ。なかなかほかのかごの手提げにはないしっとりした質感、洋服、着物どちらにもあう雰囲気です。左は、いたやかえで。白くやわらかな肌さわりは北欧のかごにも似た雰囲気をもっています。
「最近では、外国産のかごやプラスティックやステンレス商品に押され、生活用品としてのかごの需要が減っています。そうなると材料を採る人、編む職人もどんどん少なくなって、いくつかの代表的な産地を除いて、とても深刻な後継者不足がおこっています。これまで何世代にもわたって伝えられてきた知恵や技が途絶えてしまうのは、将来、今の時代を振り返ってみた時に、とても大きな損失のように思うのです」
その技術と文化を守るためにも、かごのことをもっと知ってほしいと伊藤さん。かごは、自然の恵みと人の知恵、技術の結晶。日本のかごをもっと知りたい、応援したい、という気持ちになりますね。
取材・文 高橋紡
写真 永田智恵