台所道具として、インテリアとして、収納道具として。
kuraline編集部も大好きなかごですが、
遠い遠い昔から日本人の生活に欠かせない日用品でした。
もっと知りたい、かごのこと。
そう思い訪れたのが、かご専門店の「カゴアミドリ」。
日本だけでなく世界中の手仕事のかごが集まっているお店です。
店主・伊藤征一郎さんに身近な「手提げのかご」を通じて
どのような素材で作られているのか、奥深いかごのほんの入り口を
まずは教えていただきました。
山の恵み、樹皮、ツルからできるかご
木通(あけび)/東北地方、信越地方など
10月ごろ山に入ると、ころんと丸く長い「あけび」の薄紫色の実を見ることがあります。熟すとぱっくり厚い皮が割れて、なかからバナナのような甘い果肉が現れる昔から親しまれてきた果物ですが、その木のツルがかごの材料として使われてきました。
「あけびのツルは丈夫でしなやかなんです。小さいものから大きいものまで、四角くも丸くも編めるから自由度が高いんですね」
だからでしょうか、素材としてポピュラーで東北地方ではあけびで作られた日用品が生活に浸透しています。山のなかで十数メートルにもおよぶ長いツルを採る作業はとても大変だとか。太い部分は大きなかご、細い部分は小さいかごに無駄が出ないように配分するのはさすが職人技。ツルの美しい茶色は、日光を避け広葉樹の落ち葉の中で順調に育った証拠です。
「汚れたら濡れた布でふきとって、日陰で乾かしましょう」
北東北の場合、青森の八甲田山や十和田湖周辺、岩木山の山麓一帯が、良質なあけびのツルが採れる場所。「みだれ編み」「ほら編み」「こだし編み」「畝編み」と呼ばれる様々な編み方があり、同じ素材でも表情がかわります。(商品すべて参考商品)
胡桃(くるみ)/東北地方、信越地方など
くるみといっても、あのおいしいナッツ(おにぐるみ)ではなく、このかごは「さわぐるみ」という木の皮から作られています。
「木に水分が多い夏の間に皮をはぐんです。弾力のある繊細な手提げかごを編むには、皮がまだやわらかい若い木が多いです」
さらにはいだ皮はしっかり乾燥させ、編む段階で水に浸して柔らかくしテープ状にしてから編み始めるとか。なんと準備に時間がかかる大変な手仕事!
皮の表面は明るい灰褐色、裏面はチョコレートのような茶色。表裏の色が違いを楽しんだり、ツートーンにしたり。編み方によって表情が変わるのもおもしろい。
山葡萄(やまぶどう)/主に東北地方の山間部
やまぶどうのツルは今のような便利な道具がなかった時代において、いわばロープや、吊り橋の素材として使われることもありました。縦方向にかかる力に強く、なんと車でも引っ張れるほどの耐久性!
「ちゃんと手入れをすれば100年でも使えるそうですよ」
ツルはそのままでは堅くて使いづらいので、表面の皮をはいでなめして、と加工が必要ですが、かごを使い始めるとどんどん柔らかく手に馴染んでくるとか。3代先まで受け継げるかごバッグなんて素敵です。
右の下部分は「四つ目編み」、左は「網代編み」という竹細工でも使われる伝統的な編み方。なかに真田袋をバッグインバッグにしたり、ファーやレザーをふたがわりにしたりと、アレンジも楽しめます。
<後編へ続く>
取材・文 高橋紡
写真 永田智恵